映画史の基礎知識

 たとえば、映画の東宝ってのは東京宝塚が前身なんだよ、つまり略して東宝なんだよ、阪急電鉄小林一三がつくったんだよ、なんて話をすると、へええ、と驚かれたりします。

 かつて映画研究会に所属していた自分にとっての基礎知識みたいなものなんですけど、意外に知らないヒトが多くて驚いたりする。

 ちなみに東映東急電鉄五島慶太がつくりました。つまり東宝東映ともに東西の私鉄の雄がつくったものなのですな。ちなみに東映には大陸から引き揚げてきた満映こと旧満州映画協会のメンバーがその中心に与したのでありますよ。


 で、満映、といえばその理事を務めていた甘粕正彦や、看板女優として活躍し戦後は国会議員になった李香蘭こと山口淑子の名前が浮かんできますな。

 甘粕大尉と言えば、旧満州国の謀略、特務活動の顔役として満州を舞台とした物語ではお馴染みのヒトですね。アカデミー賞9部門での受賞となった名作映画「ラストエンペラー」でも坂本龍一さんが印象的な役を演じておりました。関東大震災下の混乱時に無政府主義者大杉栄を虐殺した主犯として下獄、後に満州に渡りさまざまな特務活動に従事、ラストエンペラーこと溥儀を天津から連れ出したのも甘粕大尉でありますな。甘粕の特務活動資金の一部は満映からも出ていたとも言われております。

 ところで、この満洲の影の帝王とも呼ばれた甘粕大尉と満映で親交を持っていた役者が現代にまだ生きているのでありまして、それは誰かと言えば、森繁久彌さん(山口淑子さんもまだ生きておられますね)。

 正直、森繁久彌さんの演技はレベルが違う。

 いまでこそ文化勲章を受賞した好々爺、といった風情ですけれど、上記の甘粕大尉との交流含めて、戦時中はアナウンサーとして対ソ謀略放送に携わったり、敗戦時にソ連軍に抑留されたりと、生きてきたレベルが違うとしか言いようのない役者さんですな。甘粕大尉の前でヒトラームッソリーニの物真似をしたこともあるという、森繁さん。

 他に満映で甘粕大尉に関わったヒト達と言えば、仮面ライダーの生みの親ともなった内田有作の父であり、「大菩薩峠」や「飢餓海峡」の巨匠として知られる内田吐夢推理小説作家である赤川次郎の父で、満映では脚本を書いていた赤川孝一ほか。二人は甘粕大尉の最期(服毒自殺)の場にも立ち会っております。


 ところで、なんでこんな話を書いているかというと、実際に歴史にそういうレベルで関わったヒト達がこれまで映画を製作したり役者をやってたりしたんだもの、そりゃなかなか勝てるはずねえべ、っていう。

 ついでにその二代目が仮面ライダーの生みの親だったり推理小説のヒットメーカーだったりするのも不思議な気分になりますね。
 

 ふと、自分たちはどういう歴史の流れの上で動画を作ったりしてるんだろう?なんてことをたまに考えたりする。凄く大袈裟だけれど。歴史はいつでも後から語られるものですけれど、どういう変化の時期にいるのかな、ってなことをふと思ったり。